経営不振に陥った会社を立て直す方法の一つに、事業再生があります。赤字の事業を整理し、収益が見込める事業だけを残すことで、会社の経営を軌道にのせる方法です。事業再生には法的再生と私的再生がありますが、現実的には倒産のダメージと変わらない法的再生よりも、私的再生が選ばれる傾向にあります。ただ、裁判所が介入する法的再生と比べ、経営者自身が動く必要のある私的再生には、トラブルが起こることも多く、法的再生よりも時間がかかるのがデメリットです。そこで新たに誕生した事業再生ADRについて、詳しくご紹介します。

事業再生ADRは法的再生と私的再生に加わった新たな選択肢

会社の経営が悪化している場合、早めの対策が必要となります。資金難に陥った場合、早めの対策をしなければ、手形の不渡りが出て倒産という選択肢しか残らなくなる可能性もあります。倒産の手続きをした場合、負債は返済不能となるか、返済期間が長くなるといった措置がとられますが、倒産したことが公になってしまうため取引先を失うなど社会的な信用をなくしてしまいます。さらにそれまで築きあげた実績が0になり、優秀な従業員を失うため、そこからやり直すのは困難になってしまいます。そのため、会社を倒産させずに事業を継続しながら経営の立て直しを図る方法として、事業再生が登場したのです。ただ、事業再生がどの会社もできるとは限りません。タイミングを間違えれば、事業再生を実施したにもかかわらず、倒産してしまうこともあるからです。ただし、事業再生としては法的再生と私的再生のどちらかを選ぶ必要があります。それぞれメリットとデメリットがあり、一長一短の方法であることから、早期の解決を目指すために事業再生ADRが生まれました。

事業再生ADRは法的再生と私的再生のそれぞれの長所を取り込んだ方法

事業再生ADRは、「裁判外紛争解決」(ADR)から来ています。民事上の紛争を訴訟の手続きをせず第三者が関与することで解決に導く手法による事業再生です。ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)に基づいて行われます。事業再生では、裁判所が関与する法的再生と経営者自身が再生のために動く私的再生の2つから選ぶのが一般的でした。しかし法的再生の場合、裁判所が関与することで公正な手続きが行われる一方、法的再生を行っていることが公開されてしまうため、倒産した状態と変わらないダメージを会社が受けることになるのがデメリットです。一方の私的再生は、経営者が直接債権者との話し合いをすることで、事業を立て直す方法ですが、債権者が事業再生に同意しなければ手続きができないため、時間がかかってしまうのが問題となっています。事業再生はスピード勝負の面も大きく、着手に時間がかかると手遅れになりかねません。そこで裁判所が関与しないながらも、国が認めた第三者が関与することで、短期解決を目指す事業再生ADRという新しい選択肢が選べるようになったのです。

事業再生ADRには国が認定した団体が関与する

事業再生ADRでは、法務大臣の認証、および経産相の認定を受けた事業再生実務家協会が関与します。裁判所や国ではない100%民間の団体であり、事業再生を行う会社とも債務者とも関わりのない立場から関わるため、公正な手続きが行われます。事業再生実務家協会(略称・JATP)によって専任された弁護士や公認会計士が関与しますので、会社側から依頼するといったこともなく、手続きややりとりが一本化している点でも安心です。もちろん法的・私的再生と同じく、会社側で様々な書類作成や事業再生計画書の作成など経営者がすべきことは変わりませんが、専門家のアドバイスを受けながら作成を進めていくことができるため安心です。